1760年代から1830年代にかけて英国で起こった産業革命は、すでにグローバリゼーションを展開する英国貿易政策がその一因であったことはだれも否定しないであろう。
しかし、オックスフォー大学経済歴史学者Robert C. Allen教授は、著書「The British Industrial Revolution in Global Perspective」を紹介する コラム (訳 田中清泰氏 )
で石炭利用による当時の低廉なエネルギーコストが英国で産業革命が起こった一因としていることに大きな興味を感じた。
(出典: http://www.flickr.com/photos/nickwebb/7662554812)
英国のグローバリゼーション精神が旺盛であるにも関わらず、しばらく他国で産業革命が進まなかった原因はその経済性、つまりエネルギーコストが英国より高いハードルがあったからだと指摘する。当時木材と石炭が主なエネルギーであったが、コスト面で優位な石炭も、その環境汚染度から木材との価格調整まで考慮された裏話もある。また産業を興すためのエネルギー要因の重要度はすでに浸透されており、石炭のエネルギー効率をいかに上げるかがすでに当時の課題であった。まさに英国では、エネルギーマネジメントは産業革命とともに浸透してきたと言っても過言ではない。
また産業革命は当時の生活レベル向上に一役担ったものの、必ずしも民衆がイメージした幸せにたどり着いていない。労働環境の悪化や環境汚染の問題など負の側面があったことは今回のロンドン五輪開会式で見せつけられた。ところが英国の強みは、負の側面から逃避することなく、問題に真剣に取り組んでいくことにある。
(出典: http://www.flickr.com/photos/nickwebb/7662370764/)
つまり、グローバルに産業革命の恩恵を得ている中で、英国は産業革命の負の側面を早くから経験し、その対策に取り組んできた。その過程が、現在のエネギーマネジメントを優位に進めている源であるように考えられる。
(出典: http://dawncompk.files.wordpress.com/)
「エネルギーの効率的な経済のためのアメリカ委員会」(American Council for an Energy-Efficient Economy/ACEEE) が最近発表した独自スコアカードシステムによる評価では、主要経済12か国の中、エネルギー効率化について英国が総合点で第1位にランクづけたことでもその優秀性がわかる。(ちなみに日本は第2位)。
電力の民営化も1990年代サッチャー政権で敢行され、現在に至ってはエネルギーを直接販売する小売供給制度が行き渡り、消費者は電力とガスの供給先を携帯電話やインターネットのサービスを利用する感じで選ぶことができる。電力取引が進んでいる背景が見えてくる。
英国民は早くから地球温暖化を現実としてとらえ、そして炭酸ガス排出について非常に敏感であった。英国の強みは、政治的文化の成熟性から、その民意と意向をしっかりとらえた英国政府の気候変動への早くからの取組みが背景にある。財務大臣の要請により、2006年にニコラス・スターン氏(経済学者)によってまとめられた環境問題に関する報告書、スターンレビューは、環境問題を経済学的に評価した画期的な内容であった。気候変動とその経済性を実現するには、産学官が協調して、自国の問題だけでなくグローバルの視野にたった取り組みが欠かせない。そのポイントが、自国のエネルギー効率を高め、その模範をグローバルに示すことであったことはあまり知られていない。それは、英国政府の運用そのものが英国内のエネルギーマネジメントを推し進める内容になっていることでわかる。英国政府の運用の構図が自国のエネルギーマネジメント運用を促進することを目的としたものであるかは、以下の図でわかる。
図 1:英国政府のエネルギーマネジメント運用構図と支援機関
スターンレビューを発行した財務省がエネルギーマネジメントに関する予算の直接管理をする構図もやる気のある中小企業を活気づけている。「カーボン報告義務」の存在がそれぞれの国の利害関係で難航する中、エネルギーユーザの側にたつ環境・食糧・農村地域省(Defra)の努力で2009年の時点でカーボン報告義務法を通過させ、コミュニティ・地方自治省(DCLG)の支援のもと、施行されている。カーボン管理とエネルギー、そしてスマート化への動きへロンドン大学がサスティナビリティ分野に力を入れ、その頭角を現しているのはまさにその効果であろう。エネルギーユーザの側にたった、エネルギー効率化へカーボントラスト社やエネルギーセービングトラスト社などサスティナビリティ事業関連の機関が有効的な役割を果たしている。最近では Centre for Efficient and Renewable Energy in Buildings(CEREB:ビル建物再生およびエネルギー効率化センター)がロンドン市のビル運用におけるエネルギー効率化へ大きな力となっている。また、英国を代表する企業、ブリティッシュテレコム社(British Telecom社)は、英国全体の 0.7% の電力を消費しており、カーボン量安定化プログラム(CSI:Carbon Stabilisation Intensity)評価法への取り組みにより、2020年までに80%削減という挑戦的な目標を掲げている。
歴史的に英国は世界の貿易の中心にあり、あらゆる変化を恐れずに受け入れてきた。大手多国籍企業から個人企業までが英国に注目してきた経緯がそこにある。また、英国企業は、違う環境や背景から事業を展開しようとする海外からの企業家に耳を傾ける先見性を持つ。その文化を受けて、英国政府はグローバル規模の事業を積極的に後押しし、大企業から個人企業までが平等に活躍できる事業環境をつくる努力を惜しまず、完璧でないことは隠さず常に改善の道を探る姿勢は、新事業を検討する企業家にとって大きな力となる。その実現に大きく貢献しているのが、英国貿易投資総省(UKTI)である。
結果として、今日、在英企業と英国政府の気候変動方針のリーダシップにより、英国はサスティナビリティ分野におけるIT産業によるイノベーションの中心的な役割を果たしている。
(出典: http://www.dailyrecord.co.uk/news/
uk-world-news/2012/07/28/london-olympics-danny
-boyle-s-opening-ceremony-captivates-world-as-
games-get-off-to-a-stunning-start-86908-23913799/)
ロンドン五輪開会式では、産業革命の努力により五輪が大空に構成された。そして、IT化された文化のなかで、サスティナビリティというこれからの英国未来を、若者の躍進と彼らのエネルギーに期待するメッセージが込められていたことに、大きく心を動かされたのは私だけではないと思う。
山之内
2012年8月1日
(出典: http://www.flickr.com/photos/rabinal/7662190504/)